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 生活者の視点で、わかりやすい情報を基本とし、法律や経済、くらしの様々な有益な情報をコラムとして、学識経験者や専門的な分野で活躍する方々に寄稿していただいたものを掲載しています。

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シニアが老人に見えなくなる日 〜いいお年寄りになりたい〜 2010/Vol.32
 早いもので4〜5年もの年が流れたのだが、老人を自覚する過渡期の思い出である。
 「若くなったのと違うか、同級生とは思えないくらい老けていた」、私の顔をしみじみと見て、彼は箸を口に運び、ちょっと言いよどんだが思い切って言った。お互いに退職して時折会って簡単な食事をしながら昔の思い出話をして情報交換をする仲だ。
 退職を機にブレザーを脱ぎ、職場の束縛から逃れたい一心で、よれよれのジャンパーばかりで過ごしていた。スーツを着れば瞬時に体に緊張感が走り、寛(くつろ)ぎが失われ職業人になる。人間として表もあれば、当然のこと裏もあるのだが、私の職業は表だけしか許容をしてはくれなかった。ネクタイを締めれば横断歩道ではないところをこっそりと渡るのさえ気が引ける。その意味でジャンパーは気苦労から解放される一方法でもあったのだ。
 私より2年遅く退職した彼は職場では管理職になり、周りは年下ばかりだったはずである。スーツに身を固め背筋を伸ばした職員ばかりの中で働いていた、それも東京だ。日々自ら試験管や検査試薬を見つめながらも、職員に指図していた。彼がテキパキと動けば部下も動かざるを得なく、若さがなければ勤まらなかったのではないかと想像する。
 東京での勤めを終えて郷里へ帰ってきてはじめて会ったのは、男の2人連れには不釣合いな山間の喫茶店風の洒落たところだった。彼はネクタイ姿だが、現れた私はボロシャツに運動靴、身軽で仲間と会うのだから気遣いをしてはいなかった。彼にとっては昨日までの職場の仲間と目の前の私には大きなギャップがあったに違いない。老けた田舎の見るからにおじさん。口には出さなかったが、同級生とは思えなかった、というよりも彼と私が同年齢であることを認めたくなかっただろう。
 彼も2年ほど田舎で暮らした。出かければジャンパー姿が大勢を占める会合であり、最近の徳島は老人の多いところだ。奉仕的なサークルだって支えているのはそれなりの年輩者である。彼を迎えてくれたのは、彼よりも年長者ばかりで、見慣れた風景はすっかり職業人時代とは変わった。言い換えれば出かけるところのほとんどで彼が最年少になっていたのだ。
 「親しい同級生でも人に会うマナーはある、少しは身だしなみに気を配って行きなさい」妻に強く叱責された。久しぶりに会うのだから、それなりの服装をせよ、と命ぜられたのだ。エチケットというのもあるかも知れないと思った。さらに月日とともに上着からくる緊張感も薄れていて、妻にあてがわれた上着を着て食事に出かけた。馬子にも衣装で、年相応にとは言わないまでも、実年齢プラス5歳くらいには収まった。
 職場人間は、職場から放り出されると何をどのようにしてよいのか、簡単な隣近所の交際のことさえも分からない。ご近所の集まりにも顔を出さずに妻に任せてきた私にとっては、ご挨拶する知り合いは極めて少ない。ウォーキングと思って歩いてみるが25年余りも住んできたにもかかわらず見慣れぬ風景が思いのほか多いのには、我ながら軽い驚きである。大手を振って歩くには気恥ずかしいし、会う人に頭を下げて挨拶をしてよいのか、知らん振りをするのが好ましいのかさえ分からない。
 退職後の不器用な人たちのために所によっては「地域デビュー講座」が開かれているそうだ。一昔前なら濡れ落ち葉とか産業廃棄物と言われた男たちも、こんなに多くなれば社会も放置できないらしい。「地域デビュー」とは絶妙のネーミングだが、私のことを言われているのだから、笑ってばかりはいられない。久しぶりに会った彼が、私を「若くなったのと違うか」と言った。服装による外見からの判断によるところが多いのだろうが、彼の日常の生活が大きく変わり、老人が多く住む地域の住民となった証のようにも思える。私のようなシニアが老人とは見えなくなった。これこそ彼の「地域デビュー」完了で、シニア世代に自分が違和感なく適合していることに他ならない。大人ばかりの社会にいたので、老人の多い社会にも順応しやすかったのだろう。
 それに引き換え私は、長い間十代の子どもたちを相手に生活をしてきた。会話の多くは目下の人たちであった。目上の人と話すことが多くなったのだが、間合いを取るのに苦労するし、会話の内容やマナーにはまだ違和感がないとは言えない。彼に若返ったように言われてからも月日は流れたが、まだまだシニアの中でも緊張する。地域デビューが完了の域には届いていないのだろう。ちょっと寂しく辛いが現実を認めることが地域デビューの一歩だと思うしかない。
 秋は各地で文化祭が開催される。ちょっとは、実年齢に見てもらえることを期待して、私も年に1回のネクタイを締める日である。
                    
                           松茂町文化協会 会長 三原茂雄

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