
拙宅は国道に近く、コンビニやら銀行、ガソリンスタンドなどが目につきます。元々は農耕地に人家が点在していたようです。かつての水田が”ハコモノ”に変わり、喧騒と排気ガスしかもたらさない潮流にあらがうべく、緑を大切にしています。居宅に隣接する小さな畑地は、茫々たる雑草に加え最近はササが我勝ちに繁ってきました。家人からいくら叱責されようが、わざわざ酸素を供給してくれる植物を、CO2(二酸化炭素)を排出して刈り払う世の”常識”というものを私は理解できないままでいます。
春にはそのササにウグイスが飛来し、自慢のノドを披露してくれます。早暁6時ごろからの「ホーホケキョ」は、目覚まし時計代わりです。だが、この”風流さ”をいくら強調してみても、家人たちにはソッポを向かれるばかりです。取り付く島もありません。それで、日頃の運動不足を解消すべくエクササイズがてらに鍬を振るのですが、これを待ちかねている愛敬者がいます。モズです。最初は頭上の枝にとまり、私の働きぶりを監督しているのですが、やがて足元近くにまで降りてきて何やら目にもかからない小さな餌を啄んでは美味しそうに食べています。で、また指定席に戻り辺りを睥睨するというパターンの繰り返しです。
しばらくして、土の中から甲虫の幼虫が出てきました。勾玉のように体を曲げた小指大の白いヤツ。これを手のひらに乗せ頭上のモズに目配せすると、急に姿勢を変え前のめりに攻撃態勢をとる。掌中の虫に気づいたようです。「用意はいいか〜、見失うんじゃねえぞ〜」数メートル先に山なりに投げてやると、間髪を入れずに舞い降りてくわえ捕る。何回か地面に叩きつけたり、鋭く曲がった嘴で細かく噛み刻み、仮死状態にさせたところでどこかへ持ち去ってしまう。もちろん”ハヤニエ”にするためです。数分後には帰ってきて、また私の目配せを待っています。
不思議なことに毎秋冬期、我が荒れ畑に帰ってくるモズは決まってメスです。ひょっとして同一個体なのかもしれません。今年も帰ってきてくれるだろうか。彼女とのデートを楽しみにしていますが、体はサロンパスだらけで楽じゃありません。救いはただ一つ、家人の不機嫌が一瞬和らぐことだけです。
日本野鳥の会会員 吉田 和人